大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福島家庭裁判所郡山支部 平成12年(少)264号 決定

少年 D・S子(昭和60.5.6生)

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、

第1  平成11年9月10日午後5時30分ころ、福島県郡山市○○町字○○×番地の×所在の株式会社○○(代表取締役○○)店内において、同社所有のアイシャドウ1個(価格1200円相当)を窃取した

第2  A子、B子、C子及びD子と共謀の上、平成11年11月8日午後5時ころから同日午後6時30分ころまでの間、福島県郡山市○○町字○△××番地所在の○○神社境内において、

1  E子(当時14歳)に対し、こもごもその顔面等を手拳等で殴打し、足蹴りするなどの暴行を加え、よって、同女に対し、加療約1週間を要する顔面挫傷、頚椎捻挫、両下肢挫傷、臀部挫傷の傷害を負わせた

2  少年、上記A子、B子及びD子において、F子(当時14歳)に対し、こもごもその顔面等を手拳等で殴打し、足蹴りするなどの暴行を加え、よって、同女に対し、加療約1週間を要する頚椎捻挫、顔面挫傷、両大腿挫傷の傷害を負わせた

3  少年、上記A子及びD子において、G子(当時14歳)に対し、こもごもその顔面等を手拳等で殴打し、足蹴りするなどの暴行を加え、よって、同女に対し、加療約1週間を要する顔面挫傷、頚椎捻挫の傷害を負わせた

ものである。

(法令の適用)

第1の事実 刑法235条

第2の1ないし3の各事実 いずれも刑法60、204条

なお、平成11年(少)第764号ぐ犯保護事件については、少年のぐ犯性が現実化して上記第1の非行事実である窃盗が惹起されたものと認められるから犯罪たる上記窃盗に吸収され、独立して審判に付すべき事由としては認定しない。

(処遇の理由)

1  本件非行の概要

本件は、少年が薬品店で商品である化粧品を万引き(第1事実)し、シンナーの吸引を先輩に告げ口されたことに憤慨して、友人数名と共謀の上、同じ中学校の生徒3名に暴行を加えて、それぞれ傷害を負わせた(第2事実)という事案である。

2  これまでの経緯、少年の資質等

(1)  少年は、実父母の間に第二子長女として出生したが、6歳のころに実父が酒乱であったこと等から実父母が協議離婚し、実母が親権者となって、以後は実母によって養育されてきた。小学校までは成績も良く、実母の期待に応えてきたが、中学校入学後に万引きをし、中学2年生になると、夜遊びを始め、髪を染めたり、ピアスをするなど服装の乱れや不登校等の問題行動がみられるようになった。その後、上記第1の非行を惹起すると、実母は、少年を連れて児童相談所に相談に行くなどしたが、少年の行状は改まらず、ボンド吸引や暴走族の集会に参加するなど問題行動や不良交友は依然として続き、上記第2の非行を惹起した後に深夜徘徊で補導され、さらに平成11年11月中旬ころに家出をしたことから、実母が警察署に捜索願を提出し、友人宅に居たところを保護されたため、同月29日に当庁にぐ犯事件として送致され、観護措置が取られた。そして、少年は同年12月24日、在宅試験観察となったが、まもなく不良交友関係が復活し、1か月後には、家庭裁判所調査官との約束事項を破って、門限を守らず、遅刻、無断下校や化粧等の校則違反、無断外泊を繰り返すようになり、遊興中心の生活となって、実母や学校の教師の指導にも素直に従わず、かつてはある程度自信のあった学業も現在では授業に付いていくことすらできず、学業意欲を喪失している。平成12年4月から、実母は少年と転居して中学校も転校し、新たな環境の下で中学3年生として再起を図ったものの、それまでの不良交友関係を依然として絶つことができず、生活態度もあまり変化がみられていない。

(2)  少年の資質・性格については、知能的には恵まれており、理解力、判断力は十分に認められる。性格的には、明るく、さっぱりしており、自己評価は肯定的で、好奇心が強く、行動力もある。このように資質的に恵まれた面がある一方で、怖いもの知らずに行動する傾向があり、自分が他の者より優れていることを示したいとか、常に中心的な人物でいたいという自己顕示欲が強い。また、自己統制力が弱く、物事を自己の都合が良いように捉えがちで、現状認識が甘いため周囲の指導を素直に聞き入れられず、自分の考えが受け入れられないという不全感を抱きやすく反発しやすい傾向がみられる。このような少年の資質が社会適応を困難にしていることが窺われる。

(3)  少年の保護者については、実父母は既に離婚しており、実母が少年の親権者となっているが、実母は、試験観察後も姿勢が変わらずに少年に口うるさく注意して少年から反発されると、安易に少年を突き放して自ら少年との接触を避けることから、少年は一層反発を強めている。また、その一方で、実母は、少年が家出することや少年から恨まれることを怖れて、少年に対し、毅然とした態度もとれず、最近では、親子間の会話も乏しくなっている。当審判廷においても、実母は、少年の今後の監督について何ら具体的な方途も見出せておらず、このような現状からすると、実母の監護能力は著しく乏しいといわざるをえない。

3  処遇の選択

以上を踏まえ、少年の処遇を検討するに、上記のような少年の資質に未熟さがみられることや本件各非行の内容、これまでの生活状況、保護者の監護能力が十分でないこと、少年が本件各非行の背景にある自己の問題性を深く認識しておらず、内省も十分でないこと、少年を取り巻く不良交友関係、在宅試験観察における家庭裁判所調査官、学校等の度重なる指導がほとんど奏功していないことなどを総合的に考慮すると、少年に対しては、もはや在宅処遇によることは困難であるといわざるを得ない。

そこで、少年に対しては、この際矯正施設へ収容し、統制された厳格な枠組みの下で、専門的な指導により、情緒面の安定を与え、規則正しい生活習慣を学ばせ、実母に対する感情の整理を図るとともに自己中心的性格を改善して対人関係を円滑に保てるよう訓練し、かつ、物事に地道に取り組む姿勢を涵養して社会適応能力を高めさせるため、強力な働き掛けを行うのが相当である。

なお、収容期間については、少年の上記問題点を改善するため上記の指導を施すには長期間の収容が必要と考えられるが、少年は、今後の進路として高等学校進学の希望を有していることから、しかるべき教科教育を行うとともに高等学校進学に合わせて出院できるよう格別の配慮をしていただきたく、その旨特に処遇勧告することとする。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して少年を初等少年院に送致することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 鈴木義和)

〔参考1〕平成11年(少)第764号ぐ犯保護事件の送致事実

少年は、郡山市立○○小学校を卒業し、現在郡山市立○○中学校2年に在籍中の者である。

少年は、平成4年3月両親が離婚し、現在看護婦の実母H子(42歳)、高校1年の兄I(16歳)との3人暮らしである。

少年は、中学2年から非行に走り、同じ○○中学校の同級生らと非行グループを形成するに至る。

学校では、髪を金髪にし、ピアスを付ける等の校則違反を繰り返し、学校の指導に反発し、二学期以降はほとんど不登校の状態で、学校での指導の域を越えている。

家庭では、夜遊び、無断外泊を繰り返す少年に母親が注意する度に反発し、母親の指導に従わず、非行グループの友人宅に泊まり歩くなど家に寄り付かない状況にある。

今回、母親が11月21日捜索願を提出し、11月26日に非行グループのB子の家に潜伏していたところを発見されたばかりである。

この家出期間中、暴走族グループ宅に泊まっていた旨供述する等、少年の徳性を害する行動が認められる。

また、少年は、万引きの非行歴があり、非行グループではシンナーを吸引する等しており、家に寄り付かないことから、今後、窃盗、恐喝等の犯罪を犯すおそれが、十分認められる。

〔参考2〕処遇勧告書〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例